東京都のプログラミング教育が少し怪しい

みんなのコードは「全ての子どもがプログラミングを楽しむ国にする」とのミッションで「都市部は順調なので課題は地方」と地方を頑張ってきました。

特に東京都はこれまで全国の都道府県の中でも比較的準備を計画的に進めているかに見えていました。

しかし、東京都教職員研修センターが発行した昨年度の紀要での小学校プログラミング教育についての事例が『 コンピュータを使わない活動だけ 』とにわかに怪しいとのことで久しぶりにブログを書くことにしました。

そもそもこれまでのプログラミング必修化の経緯(おさらい)

国レベルでの必修化の準備

このブログをお読みの方にはご存知の方も多いかもしれませんが、2016年4月に小学校段階からのプログラミング必修化の方針が発表され、

  1. 小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議 (私も参加 2016年度 前半)
  2. 中央教育審議会答申 (2016年12月)
  3. 新学習指導要領に反映 (2017年3月)
  4. プログラミング教育の手引き (2018年11月)

との段階で方向性が具体化してきました。

その中で、Step1より

「子供たちに、コンピュータに意図した処理を行うように指示することができるということを体験させながら、将来どのような職業に就くとしても、時代を超えて普遍的に求められる力としての「プログラミング的思考」などを育成するもの」

との記載があり、以降もそれを踏まえた指針が示されています。 (これに様々な批判もあるのは承知していますが今回は議論しません。)

 その中ではコンピュータを使うことをベース(主)にしつつ、コンピュータを使わないアンプラグド *1 の活用を含み(従)連携することも可能という事になっています。

例えば、プログラミング教育の手引き第二版には下記のような記述があります。

コンピュータを用いずに行う指導の考え方 コンピュータを用いずに行う「プログラミング的思考」を育成する指導に ついては、これまでに実践されてきた学習活動の中にも、例えば低学年の児童を対象にした活動などで見いだすことができます。ただし、学習指導要領では児童がプログラミングを体験することを求めており、プログラミング教育全体において児童がコンピュータをほとんど用いないということは望ましくないことに留意する必要があります。コンピュータを用いずに「プログラ ミング的思考」を育成する指導を行う場合には、児童の発達の段階を考慮し ながらカリキュラム・マネジメントを行うことで児童がコンピュータを活用しながら行う学習と適切に関連させて実施するなどの工夫が望まれます。 (プログラミング教育の手引き第二版より)

東京都はこれまで着実に準備してきたように見えたが、、

  そんな中、東京都教育庁も 2017年度に「高度IT利活用社会における今後の学校教育の在り方に関する有識者会議」という会議を全国に先駆けて立ち上げて単に文部科学省に言われたプログラミング教育を実施するだけでなく、どういった教育が良いか検討をはじめました。

 小学校プログラミングについても2017年度にまずは7校の推進校を立ち上げました。新しいことを始めるのに小学校だけで実施するのは厳しいので7校に7つの企業をマッチングし年度を通してどういった授業が良さそうか実証を行いました。

 その後 2018年度も7校だけは足りないので離島も含めた各市区町村1校以上の75校を推進校に指定し、この75校についても引き続き学校だけでは厳しいので企業とマッチングし実践を積んできました。

今回の研究紀要

何がまずいのか

 東京都教職員研修センター紀要 第18号 という東京都の公式な研究で各学校等へ配布され今後参照されるであろう研究報告に実践が5件掲載されているのですが、「その 全件がコンピュータを使わない学習活動 である」という点です。

 例えて言うならば、 「 実際には運転をせずに、座学やシミュレーターだけで車の運転免許を交付しているようなもの 」 です。

どうしたらよかったか

 これだけで解決するとは言い切れませんが、推進校と同じようにITについて分かる人を巻き込む必要は最低でもあったと考えます。(みんなのコードも本取組について認識していませんでした。)

 また、これは完全に推測ですが、教育行政でよく起こる問題として、教育委員会の本庁(推進校を主管)と教職員研修センターの連携が「縦割り行政」になっていて、うまく連携していないのが本件の遠因にあるのかもしれません。

今後どうしていくか

 教職員研修センターにおいては、同紀要の末尾に書かれているように今後コンピュータを使った活動をきちんと打ち出していく必要があるでしょう。みんなのコードとしては、順次関係各方面への問題提起をしていきます。

 ただ、こういった事例は今後も他の自治体で発生する可能性があります。 もし読者の皆さまがそういった事例を目にしたら、本記事を参考に躊躇なく問題提起を していただけると幸いです。その問題提起により全国のプログラミング教育が少しでも良い形になるかと思っています。

*1:元々はComputer Science Unplugged というプログラミング教育よりも上位の概念である学問体系のコンピュータサイエンスをコンピュータを使わずに学ぶ手法