東京都「高度IT利活用社会における今後の学校教育の在り方に関する有識者会議」にて発表してきました。

先日より東京都の「高度IT利活用社会における今後の学校教育の在り方に関する有識者会議」を拝命しているのですが、発表する機会があり私見をお伝えしてきました。

そもそも何の会議?

設立の趣旨は東京都教育庁のwebにありますが、

ざっくり言うと「2020年からの次期学習指導要領での小学校プログラミング必修化どうしましょう」、「そもそも社会がITで変わっているんだから教育も変わらないと行けないよね(でも教育界の人だけだと正直良くわからないよね)、「東京としては首都だしプログラミング教育の全国の手本となりたいよね」というあたりを考える会議です。

みんなのコードとしては現状プログラミング教育の課題は地方の方が大きいのですが、「全国の手本」を考える機会になるので、ご協力させていただきました。

何話してきたの?

  1. みんなのコードとは、2. 現状の課題、 3.ざっくり提言 をしてきました。

www.slideshare.net

現状の課題としては、

「ヒト」「モノ」「カネ」の3観点からお話ししました。

ヒトの観点

「校長がみんなのコードの指導教員養成塾への参加したい教員にストップを掛ける(他県ですが)」等「管理職・ベテラン」がボトルネックになりがちな傾向をご指摘しました。

モノの観点

教材については、ハード面(PC/タブレット/ネットワーク等汎用インフラとしての課題)やロボット系プログラミング教材が学校外教育向けや国外初のモノが中心という点を指摘しました。

カネの観点

予算を付ける機運が無く、トップのセンスと手腕により自治体・学校間格差が広がっている現状を指摘しました。

という点を全国各地を回っての所感としてお伝えしました。

今後の提案としては、

啓発・人事・予算の3点をご提案しました。

1. 国民・都民への啓発運動

国内他領域で言うと、クールビズプレミアムフライデー、海外同領域で言うとHour of Code のイメージの必要性を訴えました。

2. 人事制度

現状の管理職にプログラミング教育をちゃんとやってくださいというのが一般的には適材適所とは思えないので、30代や外部IT人材からの校長登用)の抜本的なテコ入れを提案しました。

3. 予算付けましょう

トップのセンスに左右されないよう普通の自治体の普通の学校が普通にプログラミング教育始められるよう

との3点をご提言してきました。

しかし、こういった会議に参加させてもらい感じるのは、自分の考えを見直す絶好の機会になるとの、他の先生方のご意見に学ぶことが多くとてもありがたい機会だなということです。

Raspberry Pi 自治体向け周辺機器を考えてみる。

某お世話になっている市の中の方から 「Raspberry Pi 買うことになったんだけど周辺機器の調達仕様書くのつらくて助けてほしい」と言われたので、 「これと同等品と指定したらいいんじゃないですかね」というリストを調べてみました。 (普通です。)

【5/4追記】

阿部先生より「1. モニター / 3.マウス / 7.充電器 あたりが適正ではないのではないか。また、現場での検証をしないままオススメ記事にするのはリスキーではないか」(←筆者要約)という主旨のご意見を頂戴しました。 > 詳細

某市のプロジェクト後、検証結果等は改めて記事化したいと思います。

もし、実際に導入を準備している自治体の方がいらっしゃいましたら、 そのまま仕様書化する前に必ずみんなのコードへお問い合わせ いただきますようお願い致します。

【追記ここまで】

続きを読む

オンラインプログラミング教材始めました。

昨日プレスリリースを出しましたが、プログルというオンラインプログラミング教材をリリースしました。

proguru.jp

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開発を始めた理由

2020年小学校でプログラミングが必修化されます。ただし、幾つかの制約や実現への課題があります。

  1. 新規の時間ではなく総合的な学習の時間や算数、理科等の既存の教科の単元の中での実施が主流になります。「プログラミング入門」x「教科の学習」を両立出来る単元は正直中々ありません。
  2. インフラの整備が自治体ごとにバラバラです。
  3. 教員の現在のITリテラシーが平均的に高くなく、新しい事に取り組もうにも長時間労働の問題等もあり新しい事への学びがスムーズとは言い難い面があります。

先生の準備・ITリテラシーに左右されずに、教科の中でスムーズに、貧弱なITの環境でも使える教材が必要だと考え、昨年秋から開発の検討を始めました。

算数xプログラミングにした理由

開発を始める時に可能性のありそうな教科の教科書をまとめて買ってきました。

様々な教科の教科書を横断的に検討し、教科の面では算数にフォーカスしました。

よく上がる教科を今回我々が棄却した理由としては

  • 理科:小学校の理科は複雑な自然を体験/観察する事が重視され、ソフトウェアでのシュミレーション等は馴染みにくそうと考えました。
  • 図工:創作的な活動を考えるとScratchの車輪の再発明をするのはナンセンス。

等々です。

一方で小学校の 算数は「抽象的な概念の初歩段階を扱う」為、プログラミング入門との相性が全体として良さそう と考え算数にフォーカスすることを決めました。

公倍数xプログラミングにした理由

算数でも幾つか気になる単元があったのですが、既存の教科書の内容とソフトウェアエンジニア界隈で良く扱われる内容が重なる領域として公倍数xプログラミングを選びました。

ソフトウェアエンジニアの世界でFizzBuzz問題というコードが書けないプログラマ志願者を見分ける手法があります。

これと同内容が公倍数の単元で「1から数を数えて、3の倍数で手を叩いて、5の倍数だと足踏みをするゲーム」というのが出ていて「これは教材化するべきだろう」とほぼ即決しました。 (エンジニア界隈の言葉で言うと「小学生が必修化を通じFizzBuzz問題を理解出来る」という状態を目指すことになります)

どのような教材か

みんなのコードが従来押していたHour of Codeはビジュアルxドリル型のオンライン教材で、先生の指導が少なくても児童が各自のペースでプログラミング入門学習するのに適した教材です。

しかし、今回の我が国の必修化の文脈ではドリルの内容が決まっているがゆえに「教材とどう紐付けるか」というのがしばしばネックになっていました。

ビジュアル x ドリル型の良さは活かしつつ、プログルはそのままで教科の中で使えるように開発 しました。

どのように使って欲しいか

本教材は現状5年生算数の公倍数でしか使えません。

一方で必修化に際して「小学校の6年間で公倍数のプログルだけやってプログラミングをしたことにする」ようにはしてほしくないと考えています。

本教材により多くの先生に「これならプログラミング教育が自分でも始められる」とまずは気づいていただき 、そこから Hour of Code / Scratch 等の 他のプログラミング教材でのより深いプログラミング教育に興味を示していただきたい と思っております。

「失敗を恐れないでチャレンジする」ということ

教育行政と新しいことをやっているとよく「失敗を恐れずにチャレンジする」という話がでます。

プログラミング教育の導入期には「失敗もあり得る」とMicrosoft副社長、「教師・生徒がともに試行錯誤していく中で成果を」

チャレンジする主語は子どもだったり、成長してからの大人だったり、教員だったり、学校だったり、時にはみんなのコードだったり、さらには文部科学省だったり色々なのですが、どうも目線があっていないのではないかと思う事があります。

「失敗を恐れない」のイメージ

教員・官僚等の公務員系の方の「失敗を恐れない」は下図のようなイメージに感じます。

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「今までのやり方だと失敗しないで当たり前、でも多少の失敗が出ても咎めない方が良いだろう」という考え方に感じます。

一方で、自分が新しいことをチャレンジしている中(や恐らく多くの上手くいっているベンチャー)では下図のようなイメージで考えています。

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違いは何でしょうか、見ての通りチャレンジの数がまず違います。

評価のルール

では、どちらが優れているでしょうか。

これは採点ルールで変わります。

「昔ながら公務員ルール」

The 減点主義

  • ◎ 20点
  • o 10点
  • x -100点

→ 公務員的従来の仕事 90点

→ 公務員的チャレンジ -10点

ベンチャー的チャレンジ -1400点 oh,,,

「チャレンジング公務員ルール」

☓ の減点を減らそうと考えてみる

  • ◎ 20点
  • o 10点
  • x 0点

→ 公務員的従来の仕事 90点

→ 公務員的チャレンジ 100点

ベンチャー的チャレンジ 100点

「真のチャレンジャールール」

大成功にこそ価値がある。また、失敗からも学べる事があると考えている。

  • ◎ 100点
  • o 10点
  • x 1点

→ 公務員的従来の仕事 90点

→ 公務員的チャレンジ 91点

ベンチャー的チャレンジ 150点

どうしたら良い?

一概にどの採点ルールが良いかとはいえません。

(当然私もお医者さんには失敗を危惧して安全第一で治療して欲しいです)

しかし、あなたの上司/クライアント等が「 失敗を恐れずにチャレンジして欲しい 」と口先で言っている時、「 どのルールを頭に描いているのか 」を考え・確認してみるといいのではないでしょうか?

そのルールは妥当なのか 」、「 ルールを変えるとしたらどうするべきなのか 」是非議論していただけると、教育行政全般ももう少し「 失敗を恐れずにチャレンジする 」ようになるのではないかと思います。

小学校学習指導要領(案)が公表されてのパブリックコメントと所感

昨年12月の中教審の答申を受けて学習指導要領の改定案がパブリックコメントに出されました。

パブリックコメント:意見募集中案件詳細|電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

全体として

個人的にも昨年開催されたプログラミング教育についての有識者会議で提案したことを、学習指導要領という硬い枠組みの中で可能そうな範囲においては、だいぶ反映されたように思います。 プログラミング教育については、「総則」、「算数」、「理科」、「総合的な学習の時間」で言及されております。総則では、プログラミングについて各学校が計画を立ててに実施する(カリキュラムマネジメントする)よう定められています。

ただ、昨年秋以降新たに出てきている課題や今後出てくるであろう課題等を改めてパブリックコメントから下記のようなことを書こうかと思っております。

1. 教科での実践事例について

昨年の小学校段階でのプログラミング必修化の発表以降「教科内でプログラミング的思考を育む」との方針に沿い、様々な実践事例が出てきています。

今回の指導要領でも例示されている算数5年生の多角形の事例のような教科内かつプログラミング体験として親和しているものもある一方で、具体的な例示はしませんが教科との親和が低かったり、逆にプログラミング教育の入門としてミスリードな事例等玉石混交なのが実情です。

先日発足した「未来の学びコンソーシアム」等を通じ、こういった不適切な事例についての確認をする必要があり、逆に指導要領で具体的な列挙がされている単元以外でも今後適切な事例が生まれるはずであり、指導要領で例示されていない単元においても良い事例が広まるような活動を推進する必要があると考えられます。

2.プログラミング必修化の指導要領解説編への記載について

小学校段階のプログラミング必修化については、昨年4月の「産業競争力会議」での「第四次産業革命に向けた人材育成総合イニシアチブ」の中での発表以来、国内外の実践事例も少ない中、急速に実施の方向が取りまとめられました。

その中で「教科内でプログラミング的思考を育む」という実施に当たっての方針が独り歩きしており、その背後にある「第四次産業革命ともない社会構造が変わるので学校教育も変わる必要がある」、「身近な生活がコンピュータ・プログラミングの働きの恩恵を受けている」といった「プログラミング必修化に至った文脈」の理解が教育関係者においても弱い傾向があります。

今後の指導要領の解説においては、ぜひ「なぜプログラミング必修化なのか」を教育委員会指導主事や校長等の管理職がきちんと語れるよう「どのように実施すればよいのか」だけでなく「その根底にある考え」から解説する必要があると考えております。

3.プログラミング教育の各階層における普及推進について

小学校段階のプログラミング教育活動をしていると、各階層毎のプログラミング教育への理解が必要だと感じております。

A.管理職・教育委員会等、B.中核となる教員、C.現場の多数の教員、 の3つの階層とすると、

A. 管理職・教育委員会等への普及については、

自身がプログラミング教育に直接携わるというよりも「必修化について背景から理解すること」、「自身もプログラミングについて短時間で良いので体験し実感を持って理解すること」、「次項以降の教員育成の支援をすること」等がまずは必要になります。

B. 中核となる教員への普及については、

英語における推進リーダーと同様に中核となる教員をまずは養成することが必要だと考えられます。

中核となる教員については、遠方への出張も含めた広域での研修参加、ICT機器・ロボットも含めた教材や授業研究(予算措置含む)、自治体内での研修会のリード役等の役割が必要と考えられ、茨城県古河市におけるエバンジェリスト制度等が参考になります。

C. 現場の多数の教員への普及については、

以下のような平成32年度からの逆算が必要だと考えられます。

  • 平成32年度の全面施行を考えると、平成31年度に最低でも各校1名が授業を実施し、校内研修にて横展開する必要があります。
  • 平成31年度に各校1名が授業を実施する為には、平成30年度に最低でも全市区町村1名が授業を実施し、市内情報教育研究会等で横展開する必要があります。
  • 平成30年度に全市区町村で授業を実施する為には、平成29年度に全都道府県で先進市区町村等が授業を実施し、都道府県内で横展開する必要があります。

まとめ

指導要領にどのように入るのもとても大事ですが、実際にはここからきちんと日本全国の先生に届き、日本全国の子どもにプログラミング教育の機会が届くまでが困難です。

みんなのコードとしては、「全ての子どもがプログラミングを楽しむ国にする」とのミッションの下、今後も行政・企業等と連携していきながら小学校段階のプログラミング教育の普及推進に必要なことを実施していく所存でございます!

大阪市が無料でプログラミング教育のパートナーを募集している件について

大阪市が小学校でのプログラミング教育進める為のパートナー事業者を「無償で」募集し、軽く炎上しそうです。

2020年から日本全国の小学校でプログラミングの必修化が予定されています。

学校の先生は99%以上がプログラミング未経験ですし、英語教育のようにこれまでの長い準備期間も無いですし、必修化まで3年しかないので、 各地の学校・教育委員会・自治体が大至急準備をするべき です。

しかしながら実態としては、去年急に確定した話でもあり、教育委員会等で権限がある方も「プログラミングをなぜ必修にするのかよく分からん」「どうやったらいいか分からん」というのが多くの方の実情です。

中の方と1,2度お会いしたこともあるのですが、大阪市のように、300校以上の小学校があり、文字通り「官僚的」で機敏ではない組織を動かすのは大変であったろうと思います。

当然、有償で行うべき事業でありみんなのコードも各自治体と永続的に実施できるよう協議をしていますが、無償でサンプル的な事業をやる大阪市 何もしていない自治体よりも大きく一歩先に進んでいる かと思っております。

※ みんなのコードは本事業に応募する予定はありません。

※ とはいえ募集の書き方が上から目線なのは良くないだろうと個人的には思っています。

プログラミング教育とICTインフラ

小学校でのプログラミング教育を進めると学校の先生等から十中八九「インフラの整備がー」とのコメントをいただきます。

そんな時はいつも、みんなのコードがオススメするHour of Code教材のようにブラウザベースで実施できる教材やルビィのぼうけん のようなコンピューターを使わないアンプラグドの活動があるので、学校のICTインフラに関わらず指導者の意志があればプログラミング教育が実施可能だと話しています。

しかし、先日都内のICT教育の先進校として有名な杉並区立天沼小学校の福田校長と話していたところ、先進校の違いというのを感じました。

天沼小学校とは昨夏ご縁があり、Hour of Code教材を数名の先生に紹介する機会がありました。 その後、校内の会議で全ての先生に更に紹介いただいたようなのですが、全教員がタブレットと常用している為、 すぐに検索しプログラミング教材を実際に触ってみた先生が多数 であったと話を聞きました。

天沼小学校が先進校と言われるのは単に「タブレットが何台あるか」といった表面的なレベルの話ではなく、「ICTをどのように使いこなし」、「新しいものも恐れずに向き合う」という「 文化レベルのインフラ 」が整っているから違うのだなぁと感じました。

学校でのICT整備を進めていく際には、ハード(台数/稼働率)に目が行きがちで、中身(プログラミング/既存教育)に踏み込んでいるだけで褒められるレベルですが、さらに文化のレベルのインフラまで踏み込んで居ると良い学校なんだろうなと思った次第です。

福田校長と私。