みんなのコードがプログラミング教育の入門にこだわる理由
みんなのコードはこれまで専らHour of Code教材を使った授業・ワークショップのみを実施してきましたが、この度2つ目の教材として Linda Liukusさんの「ルビィのぼうけん」を題材としたワークショップを本日と明日(7月27日,28日)の子ども霞が関見学デー(内閣官房・情報通信技術総合戦略室)開催することになりました。
- 作者: リンダ・リウカス,鳥井雪
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2016/05/20
- メディア: 大型本
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色々な人とお話すると 「Hour of Codeの 次の 教材についてみんなのコードさんはどう考えています?」とよく聞かれます。
これは以前のBlog記事でも書きましたが、 この教材は "ビジュアルxチュートリアル・ドリル型"で、ビジュアル x 自由型 や テキスト x チュートリアル型等の他の優れた教材(ScratchやCodeMonkey等)に進んでいただくのが良いかと考えています。
(下図で言うと、AからB/C/Dに進んで欲しいと考えています。)
一方で 「Hour of Code の 前の 教材についてみんなのコードさんはどう考えています?」と聞かれたことはありません。
これは "Zero to One" の著者であるピーターディールの言うように 私は「一見悪いように見えて、良いアイデア」こそがチャレンジすべきアイデア であると思っているからです。
「プログラミングが出来る人を増やす」ことにミッションを置いたサービス・製品は数多くありますが、
「プログラミングを体験する人を増やす」ことにメインのミッションをおいている法人はそれと比べると桁違いに少ないと感じています。
「スポーツと同じように、裾野の下が厚くならないと上の層は厚くならない」
というのは10年以上 WRO(World Robot Olympic)等の取組をしている株式会社アフレルの小林社長のメッセージですが、まさに テクノロジーの人材層を厚くする為に、どれだけ裾野を広げられるか チャレンジしてみたいと思います。
また、みんなのコードの3つ目の教材についてのよいアイデアある方はぜひご連絡ください!
小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(取りまとめ) が発表されての所感
小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)が発表されました。
このBlogを読んでいただいているプログラミング教育に興味がある方にどういったことが出来るかという観点での解説です。
2020年までに、「参考となる指導事例」、「教材の開発」、「教員研修」等々必要そうなことが書かれています。
気になるであろう、その中で 何年生のどの教科 で実施するのかという点については
各小学校においては、各学校における子供の姿や学校教育目標、環境整備や指導体制の実情等に応じて、 教育課程全体を見渡し、プログラミング教育を行う単元を位置付けていく学年や教科等を決め、 地域等との連携体制を整えながら指導内容を計画・実施していくことが求められる。
となり、「 各学校にて決める 」との結論になっています。
松田校長@小金井市立前原小学校のように前向きにならば、質量ともに充実したものになりますし、先生が必要性を理解していないと、
①プログラミングに興味ある教員が数時間実施して、必修化クリア。 ②幾つかのプログラミング本を見て、使えそうな事例をもってきて、 それを子どもたちになぞらせて必修化クリア。 そんな現場対応が直ぐに頭に浮かんでしまいます。
となる恐れがあります。(同松田校長Facebook投稿より)
ぜひ、骨抜きとならないように、世論で学校を動かしましょう。
そして、学校側も受け入れましょうとの方針ですので、言いっ放しではなく指導を助けましょう。
質の高いプログラミング教育の実施や指導体制の確保には、社会との連携・協働が必要不可欠である。 (中略)プログラミング教育の意義等を社会と学校が共有し、実施に当たって外部から学校をサポート しやすくするような体制を整備していくことが重要である。
そのモデルとなるような形で、みんなのコードでは、今夏学校のパソコン室でのプログラミング体験会を呼びかけています。
Hour or Code 2016夏休み全国100校1万人プログラミングとして、全国に出向いてプログラミングの手ほどきをするボランティアを募集しています。
ぜひ、 不平不満や疑問を言うだけでなく、一緒に行動する仲間を募りたい と思っています。
興味が有る方は↓のフォームからお問い合わせください。
小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議 を振り返って
昨日 6月3日 私も委員を務めている「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」の第三回が開かれ、概ねの意見がまとまり終了しました。
会議で主張したこととそれが反映されそうか
第一回での発表(下記スライド)やその後の意見交換で 臆さずに申し上げた意見が自分の想定以上に反映されそう で少し驚いています。
www.slideshare.net
1.総合的学習の時間→各教科での実習 の2段階必修が理想 : △
「各教科内の時間で プログラミングで学ぶ 」というのが、既定路線という感じが正直あったのですが、「 総合的学習でプログラミングとしてきちんと基礎を学んだ上で、各教科で実習しましょう 」と主張しました。
この部分については「 総合的学習+各教科が理想的だが、どのように実施するかは各学校に任せる 」との表現になりそうです。
2.社会でのITの重要さを理解した上で学習しましょう : ◯
「基礎教養としてのプログラミング」という観点や児童の学習意欲の為に複数コマの授業時間をもらった際に私たちがいつも実践している内容です。
簡単に言うと「みんなの暮らしでプログラミングが使われているものをみんなで20個挙げてみよう」という活動を授業の最初にしています。
この活動、最初はパソコン、スマホ、ゲームといった分かりやすいものが必ず上がるのですが、徐々に家電、交通機関、学校の備品等に広がり「 IT や プログラミングは暮らしの中で役立っているんだ 」と子どもたち(と先生)に実感してもらっています。
会議の取りまとめにほぼそのまま記載される見込みです。
余談ですが、文科省の役職者の方も会議後の個人的な感想として「学習目的を認識するのは既存教科でも出来ていないところがあるが、この取組はぜひ入れたい」とおっしゃっていました。
3.指導者育成がネックになる : ◯
全国2万校40万人の小学校の先生が自分自身もまだ理解していないプログラミングの教育を実施する際の課題として「指導者育成がネックになる」との意見を申し上げました。
いくら立派にカリキュラムマネジメントしても、緻密に学習目標を設定しても、Hour of Codeのように簡単な教材を用意しても、 子どもたちに届ける最後のアンカーをどのように育成するのか はプログラミング教育の成否を分けます。
当初の取りまとめ案 には「指導者の育成」という項目がなかったのですが、最終版には記載される見込みです。
今後の見通しとみんなのコードの取組について
「各学校で実施内容を決める」ということ
この会議では「各学校でよしなに決めてください」との結論になっています。
ネガティブに捉えると「現場に丸投げとの不満が貯まる」「うやむやにされ子どもには大して機会が提供されない」等のケースが想定されます。
しかし、みんなのコードの代表としては「 文部科学省は指導要領で細かいことは言わないけど、よしなに進めて良いというお墨付きをもらった 」とポジティブに捉えています。
学校の先生も人間ですので 「上から言われた仕事」よりも「自分が真にやるべきだと考える仕事」をやりたい です。
各学校や各自治体単位で先進的・意欲的な方とパートナーシップを組み、 各先生に「子どもたちのためにやるべきこと」だと実感してもらい、プログラミング教育の輪を広げて行こう と考えています。
2020年に向けての毎年起こること
正直学校の現場の多くの先生は、毎日の授業やその準備、今学期の活動等に忙殺されています。その為、2018年頃まで何も動かず、2019年度あたりにパニックが起こると予測しています。
みんなのコードとしては、2016,17,18年と 指導要領の施行よりも前倒しでプログラミング教育の普及 を行い、少しでもそのパニックを軽減しようと考えています。
2020年に使える物を今年度中に作りきる べく活動を計画しています。
まずプログラミング教育について体験し、認知すること
新しいことを始める際には何事も最初の一歩が一番難しいです。
会議内でも紹介したのですが、まずはプログラミングを体験してもらうのが最初の一歩と考えています。
この夏もHour of Code 夏休み全国100校1万人プログラミングとして、全国の学校でのプログラミング体験会を呼びかけています。(絶賛参加する学校募集中です!)
(おまけ) 各メディアの報道について
各メディアの記事の書き方が色々でしたので、まとめておきます。
各教科を学校で決めてと報道
能力目的にフォーカスして報道
- 教育新聞 小学校プログラミング教育 思考力育成柱に最終報告
- 産経新聞 小学校のプログラミング教育必修化 IT技術でなく論理的思考力が大事 文科省有識者会議
- 毎日新聞 プログラミング教育 教科は新設せず 文科省有識者会議
科目について若干ミスリード気味な報道
おわりに
ということで、興味を持った方と、是非この夏のHour of Code 夏休み全国100校1万人プログラミングから一緒にプログラミング教育の環を広めて行きたいと思います!
【書評】コンピューターを使わないプログラミング入門の絵本「ルビィのぼうけん」
本日発売のリンダルーカスさんの「 ルビィのぼうけん 」の待望の日本語版を読みまして速攻レビューです。
- 作者: リンダ・リウカス,鳥井雪
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2016/05/20
- メディア: 大型本
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何が素敵か
まず、「プログラミング・コンピューターって楽しい」というのを子ども(特に女の子)に伝えたいというリンダさんのビジョンが素敵です。
その上で、可愛らしいキャラクターの世界を創り(前半)、自分たちの生活と関連するテーマで考える(後半)の二部構成で、
未就学児からプログラマー的思考法 (Computational Thinking )と触れることができ、 ビジョンが形になっている のがさらに素敵です。
この本のクラウドファンディングでのメッセージビデオ
プログラミング教育での想定される使い方
1. 未就学児からプログラミング学習が出来そう
前半の絵本を読み聞かせてから 後半のアクティビティをグループワークでやると良さそう。
2. アクティビティには小学校の授業でも使いたいコンテンツが
私たちのワークショップでも、導入にロボットゲーム (ロボットとプログラマーのペアになり、ふせんのブロックプログラミングをする)を実施することがあるのですが、
- 練習8でロボットゲームが可愛らしいキャラとブロックになっていて流石だなと思ったり(絵本なので紙の上ですが)、
- 練習12では、ブロックプログラミングでダンスを作ったら楽しそうだなとか、
- 練習15は身近な題材(トイレ、犬等)がコンピューターになったらどうなるか考えるとか楽しそうだなとか
自分たちの導入やまとめで使いたいコンテンツが、いくつもありました。
こんな人におすすめしたい
1. 学校の先生(特に幼稚園・小学校)
プログラミング教育よく分からない人にお薦めです。
(さすがにこの本だけで、授業を実施するのは少し怖い気がしますが...)
2. 小さなお子さんのいるお父さん・お母さん
- 未就学児: ぜひ読んであげてください。(特に女の子!!)
- 小学校低学年: 私たちのおすすめする Hour of Code も出来るのですが、この絵本→Hour of Code が良さそうです。
一緒に授業で使ってみたい学校を募集します。
Hour of Code + ルビィのぼうけん を使った授業をしてみたいと思います。
(繋がっている方は)Facebook or info@code.or.jp or @yutatone にご連絡ください。
- 作者: リンダ・リウカス,鳥井雪
- 出版社/メーカー: 翔泳社
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小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議 (第一回) で発表してきました
本日5月13日「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」が開催され、発表の時間をいただきました。
www.slideshare.net
私としては、「プログラミング必修化」というからには 「きちんと 『プログラミングを学ぶ』 という取組をし、その後各教科での『プログラミングで学ぶ』に進みましょう」という呼びかけが 一番のキーメッセージでした。
当日は、その他に
- 人工知能について 松尾 東京大学准教授
- 文部科学省の教育課程について 大杉 教育課程課教育課程企画室長
- NPO法人CANVASの取り組みについて 石戸 奈々子理事長
- 作曲とプログラミングについて ヤマハの隅井様
- シリコンバレーからみた日本の小学校教育について 伊佐山CEO@WiL
との濃厚な顔ぶれでした。
印象に残った点
個人的には、松尾先生のAI(DeepLearning)の発表と伊佐山さんのシリコンバレーからの視点が印象的でした。
松尾先生には質問もさせていただいたのですが、
AIが社会で必要とされているのはその通りで、その必要条件として、「数理的な考え」、「プログラミング」が必要になるとのことで、第4次産業革命で人工知能の活用等が必要だとの声を上手く使いつつ、小学校段階では何をすべきかとの議論が深まると良いなと感じました。
また、伊佐山さんの発表の「プログラミング/コーディング」ばかりではなく、情操教育といった点がシリコンバレーで重視されているとの話は興味深く。シリコンバレーの現状が単なる揺り戻しなのか、日本のComputational Thinking はどうあるべきかの議論が深まると良いなと思っております。
今後気になる論点
一方で、各委員からの意見等であったのが、
「10年に一度」の指導要領改訂のサイクルが長すぎる問題が複数の委員から指摘されていました。
社会の進み方が早くなっている中、学校教育がどうこれと向き合うのかは重要なissueです。
自由度をもたせつつ、着実な実施をどうやって担保するのかは工夫が必要だと考えております。
現場からは取り急ぎ以上です
小学校段階のプログラミング教育に関する有識者会議の委員を拝命しました
小学校段階における倫理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議の設置について:文部科学省 (*1)
2015年7月に一般社団法人みんなのコードを設立し、
「単に日本国内でのHour of Codeを普及させるだけでなく、公教育でのプログラミング必修化を推進する」とのミッションを持ち、
日々前を見て頑張っておりました所、掲題の委員を拝命しました!
(そうそうたるメンバーの方の中に入れていただき身の引き締まる思いです。)
これは、いつも支援していただいている皆さまのお陰に他なりません。
一般社団法人みんなのコードの強みは、
- 実業界の方からの様々な支援や私自身の実務経験
- 学校教育での実践や課題感
- 海外での知見
等があると考え、チャンスを頂いたからには最大限この機会を活かそうと考えております。
有識者会議へのアドバイス大歓迎ですので、既に繋がっている方はFacebook 、そうでない方も TwitterやBlogコメント等でメッセージいただけたらと思います!
(*1 x倫理的→o論理的だと思われます。)
プログラミング教育の必修化までの道のりで予想される課題について
新成長戦略でプログラミングの必修化についてのリーク記事がでました。
官邸で示されるのはあくまで「方針」だけで、 官邸 → 文部科学省 → 各教育委員会 → 学校・教員 との具体的実施までのステップが肝要です。
この後、想定される課題を列挙しますと、
1. 各段階での目標整理
新成長戦略公表の段階では抽象的な表現にとどまるので、各段階でのゴール設定が必要になります。
成長戦略の想定する「 社会をリードする人材 」の教育の面と
公教育が想定する必要のある「 中間〜諸々の課題のある層 」への教育の面の
すり合わせが必要になってきます。
具体的には先行する諸外国での基準を参考にしつつ、
全教科のカリキュラムとの整合性を意識し、
各学校修了段階 → 各学年 での目標整理を実施する形になるかと想定されます。
2. 単元設計
各段階の目標が決まると、単元の設計が必要になります。
記事中での「ホームページ作成」がプログラミング教育かというツッコミは別としても、
狭義の「ソフトウェアのプログラミング」だけでなく、
- 「ロボやセンサー等のハードウェア」も含むのか
- フィジカルコンピューティングのレイヤーから扱うのか
- データベース、ネットワークといった領域を扱うのか
といった領域の議論や、既存の指導内容との整合性等を整理する必要があります。
3. 教材設計
単元設計の後、各単元の中での教材設計が必要になります。
といった論点やその効果検証が必要になります。
4. 指導者の育成
記事中では「産業界には、教材の開発や講師の派遣などで協力を求める考えだ。」とありますが、
公教育ですので、北海道から沖縄まで2万2千の小学校、1万1千の中学校で指導する必要があります。
- 「既存の学校の先生」で指導する形にするのか、
- 英語におけるALT(外国語指導助手) のような形で派遣するのか、
いずれにせよ指導人材の育成が必要になってきます。
その他平行して、
- 地域ごとの格差が激しいインフラの整備
- 世論の醸成(無関心 or 反対から賛成へ)
- 先行しての実証実験の実施
等が必要になってきます。
みんなのコードとしては、これらの課題を関係各方面と協調してクリアしていく所存です。
2016/4/16 21:10追記 導入にあたっては、何かの時間を削るという意思決定も必要かと。 政治レベルで必要な意思決定としてはこちらの方が難しいかと考えています。